東京図測量原図の見どころ(都市施設・歴史的変遷)
はじめに
東京図測量原図から読み取れる特徴のうち、都市施設と歴史的変遷の観点から、いくつかの見どころを紹介します。
(1)江戸時代の景観を思い起こさせる樹木記号
東京図測量原図には、ひときわ鮮やかな描写が施された敷地が四か所あります。現在の赤坂御用地、皇居、浜離宮恩賜庭園、旧芝離宮恩賜庭園に相当する区域で、建物や植生が色彩豊かに描かれています。これらの敷地は、東京図では白地となっており、東京図測量原図の存在によって内部の詳細が明らかになった点は、学術的にも特筆すべき成果といえます。
江戸時代において、皇居は江戸城、赤坂御用地は紀州徳川家の中屋敷、浜離宮恩賜庭園は徳川将軍家の別邸、旧芝離宮恩賜庭園は紀州徳川家の浜屋敷(幕末)であり、明治維新後は新政府の管理下に置かれました。これら四敷地の植生をデータ化したところ、耕地および樹木の種類は下表のとおりで、特に赤坂御用地では植生の種類が際立って多く、四季折々の花木が豊かに存在したことがうかがえます。
また、田畑などの耕地は比較的容易に転換できますが、樹木の生育には長い時間を要します。そのため、東京図測量原図に描かれた樹木記号は、江戸時代の景観をほぼそのまま反映していると考えて差し支えありません。たとえば、赤坂御用地内の道を、八代将軍就任前の徳川吉宗(紀州藩主)が散策していた姿を想像すると、当時の景観がより立体的に感じられます。
(2)東京の橋の変遷
都市史研究家の鈴木理生氏は、江戸をはじめとする都市の形成・変遷を精力的に研究し、東京都中央区内の橋の歴史を「郷土室だより」(中央区立京橋図書館)に約10年間にわたり連載して詳述しています。一方、東京図測量原図に描かれた橋は、統一的な図式が採用されていないためか、作成者によって表現が微妙に異なり、石橋だけでも4種類の記号が確認され、判別が難しい橋記号も6種類存在しました。そこで、鈴木(1995-2005)に示された橋の名称、東京図測量原図の橋記号・注記、東京図の橋記号を相互に照合し、橋種を特定したうえで下表のとおり整理しました。
| 橋の種別 | 記号の意味(概要) |
|---|---|
| 石橋 | 石造の橋。石造アーチ橋(眼鏡橋)を含む。 |
| 石柱板橋 | 石の柱に板状の木材を渡して架けた橋。 |
| 鉄橋 | 主な構造部材に鉄材・鋼材を用いた橋。 |
| 鉄製トラス橋 | 多数の鉄製棒材を三角形に組み合わせたトラス構造の橋。 |
| 木橋 | 主要構造部材に木材を用いた橋。 |
| 土橋 | 木材などで組んだ構造の上に土を盛りかけた橋。 |
| 釣橋 | 城郭の濠などで必要時に架け、不用時には引き上げておく橋。 |
| 仮橋 | 架橋や修理の際に、仮に一時的に設けられる橋。 |
| 種別不明の橋 | 資料不足により、種別を判定できない橋。 |
下図は、東京図測量原図に描かれた橋を種別ごとにプロットしたものです。数が多い木橋と土橋は、江戸時代から架橋されていた橋と考えられます。また、官庁街に隣接し、日本橋と銀座を抱える日本橋区・京橋区(現在の中央区)には、当時としては最先端の橋である石柱板橋、鉄橋、鉄製トラス橋が架けられていたことが分かります。
都市化の進展が速い東京では、橋の架け替えも頻繁であり、地図化は容易ではありません。しかし、東京図測量原図は測量時点の橋の状況を忠実に表現しており、東京の橋の変遷を研究するうえで有用な資料といえます。