東京図測量原図・東京図の地図記号
はじめに
東京図測量原図に用いられた地図記号について、今回初めて体系的に整理しました。
東京図の地図記号については、大森(1965)により初めて体系的に示され、その復刻が日本地図センター(1984)にも掲載されています。しかし、東京図測量原図の地図記号は、これまで明確に整理された例がありませんでした。
本ページでは、両図に用いられた地図記号の特徴と内容について、詳しく解説します。
(1)地図記号の整理手順と記号数
まず、地図記号の整理手順について記します。
- 手順1: 大森(1965)に掲載された地図記号を画像化し、個別に切り出して Excel に貼付し、 仮の記号表を作成した。
- 手順2: 東京図において、各地図記号と同一の模様を持つ地物を抽出し、その位置を GIS 上の東京図測量原図モザイク画像に模式地点としてポイントデータ化した。
- 手順3: 手順2で取得した地点について、東京図測量原図の該当部分を切り出し、 これを東京図測量原図の地図記号とした。
- 手順4: 同様に、東京図の該当部分を切り出し、東京図の地図記号とした。
- 手順5: 両図から得られた地図記号画像を Excel 上で整理し、併せて各記号の意味を資料等により調査し、 最終的な地図記号一覧を作成した。
以上の作業手順により判明した両図の地図記号は、下記の表のとおりです。
上表は、両図における地図記号数の集計結果を示したものです。大森(1965)で示された地図記号に加え、東京図測量原図から新たに 40 種の地図記号を確認することができました。特に樹木に関する記号を体系的に整理できた点は、東京図測量原図の内容解析を進める上で有用と考えます。
また、大森(1965)の「東京図記号略表」に対応させる形で、東京図測量原図の記号略表を作成しています。詳細については、別途作成した「東京図測量原図地図記号一覧(PDF形式)」をご覧ください。
なお、東京図測量原図には解釈が困難な不明記号が複数存在するほか、大森(1965)で示されている 6 種の記号を確認することができませんでした。このため、本稿で示す一覧は、厳密な意味での"完成版"ではないことを付記します。
(2)両図に用いられている地図記号
次に、地図記号について説明します。下線を付した名称は、大森(1965)に記載のない記号、または名称を改めた記号です。また、常用漢字に含まれず、Web上で表示が不安定となる漢字については、判読性を確保するため ひらがな・■で記しています。
1)家屋
【記号の名称】
民間の建物(木造)、民間の建物(土蔵造・煉瓦造)、官公庁の建物、公共の建物、陸軍の建物、海軍の建物、無壁
大森(1965)では家屋を「官舎及共有」と「民舎」に大別し、さらにそれぞれを「木製」と「かん工製;レンガ・石造り」の構造別に分類しています。 これに対し、この研究では、原田ほか(2007)を参考に建物の色分けに基づいて上記の分類を採用しました。ただし、民間の建物以外については、図上から建物構造(木造/煉瓦造等)を判別できなかったため、構造による細分は行わず、各区分を一つの記号として扱っています。
2)家屋に副する記号
【記号の名称】
神祠(しんし)、仏宇(ぶつう)、西教堂(せいきょうどう)、学校、病院、電信局、郵便局、巡査派出所、銀行
大森(1965)に示された地図記号の多くは、東京図測量原図からそのまま確認できました。しかし、「醸造倉(じょうぞうそう)」の記号については、該当する図上表現を見つけることができませんでした。また、銀行については、記号が付されていない例が多く、代わりに「○○銀行」といった注記が記されています。
3)諸物体
【記号の名称】
層塔(そうとう)、華表(かひょう)、燈台(とうだい)、常燈(じょうとう)、墓、
碑、水車房(すいしゃぼう)、井(い)、石磴(せきとう)、噴泉(ふんせん)、小堆土、大三角点、図根点、同交会点、独立標高点
大森(1965)に示された地図記号は、東京図測量原図から概ねそのまま確認できました。特に、神社・寺院に関連する記号が多く含まれており、当時の地図作成において宗教施設が重要視されていたことがうかがえます。
4)構囲(こうい)
【記号の名称】
お土牆(おどしょう)、鉄柵、柵製板牆(たなせいはんしょう)、板牆(はんしょう)、竹籬(ちくり)、生籬(いけがき)、埓(らち)、木柵(もくさく)、土囲(どい)、水濠(すいごう)、屋門、不明な構囲1~5
構囲とは塀や柵を指しますが、この記号の取得には大きな困難がありました。まず、東京図から大森(1965)に示される構囲記号を対応づけて探し出すこと自体が容易ではありませんでした。さらに、逆に大森(1965)には記載のない構囲がいくつか確認され、両者の記号体系が必ずしも一致していないことが明らかになりました。そこで、小沢ほか(2001)、原田(2007)、東京大学史料編纂所(2018)に掲載される明治期の写真に写る構囲を地図上で照合し、十分とはいえないものの、記号の整理を行うことができました。
5)境界
【記号の名称】
区、郡、地類、地類(不定)
これらの境界記号については、大森(1965)に示された地図記号を東京図測量原図からそのまま確認することができました。
6)鉄道及道路
【記号の名称】
鉄道、道路、敷石道、境内の参道
これらの記号は、大森(1965)に示された地図記号を東京図測量原図から概ねそのまま確認できました。ただし、寺院・神社の境内に描かれた参道とみられる地物については、大森(1965)に該当する記号がないため、本研究では「境内の参道」として新たに分類しました。
7)耕地
【記号の名称】
水田、田、畑、桑畑、茶畑、花畑、蓮田、牧場、草地・芝地、粟(あわ)
これらの耕地に関する記号は、大森(1965)に示された地図記号を東京図測量原図から概ねそのまま確認できました。ただし、草地と芝地については、東京図における図上表現が同一であったため、本研究では両者を区別せず「草地・芝地」として統合しました。
8)樹木
【記号の名称】
杉、松、檜(ひのき)、樫(かし)、椶櫚(しゅろ)、竹、柿、栗、桜、梅、萩、葡萄園、楓(かえで)、梨、桃、楢(なら)、桐、椚(くぬぎ)、林檎(りんご)、淋(りん)、菊、栓(せん)、柳、雑樹、独立樹、並列樹
大森(1965)に示されている樹木記号は8種類のみですが、東京図測量原図からは26種類に及ぶ樹木記号を確認することができました。これらの記号は、いずれも漢字一文字で樹種を表しており、当時の測量技師が多様な樹木を識別し、地図上に正確に記録していたことがうかがえます。
9)天然地
【記号の名称】
篠及茅生地、灌木地(かんぼくち)、泥地、砂地、礫石地(れきいしち)、蘆及湿地、尋常荒地
これらの天然地に関する記号は、大森(1965)に示された地図記号を東京図測量原図からそのまま確認できました。このうち、篠及茅生地は「篠」「笹」「茅」「■」の4種類に、蘆及湿地は「芦」「葭」「湿地」の3種類に細分されていました。
なお、蘆及湿地は「概ね湿潤で、葦(あし)などの植物が生育する土地」を意味します。一般に背の高い(古い)順に「葦→蘆(芦)→葭」という使い分けがあるとされますが、東京図測量原図においてこれらがどの程度厳密に区別されていたかは明らかではありません。
10)水部及附属物体
【記号の名称】
池、沼、地下流水及樋、流水方向、汐入(しおいり)、石橋(いしばし)、木橋(もくきょう)、石柱板橋、鉄橋、釣橋(つりばし)、仮橋(かりばし)、土橋(どばし)、渡船場(とせんば)、不明な橋1~7
これらの記号は、大森(1965)に示された地図記号を東京図測量原図から概ねそのまま確認できました。特に橋については、すべての橋をポイントデータとして取得し、鈴木(1995-2005)を参考にしながら記号を対応づけました。ただし、橋は改築の頻度が高いため、東京図測量原図に描かれた橋記号は、測量時点の状況を反映したものと考えるのが適切です。 また、石橋と土橋については、図上で黒色と赤色の2種類に描き分けられていましたが、その色分けの意味については明確ではありません。
11)その他
【記号の名称】
等高線、平櫓(ひらやぐら)・多門櫓(たもんやぐら)、石外柵、塩田、懸樋(かけひ)、不明な記号1~6
これらの記号はいずれも東京図測量原図に描かれているものであり、大森(1965)には記載がありません。平櫓・多門櫓、石外柵、懸樋については、他資料を参照しつつ、図上表現に基づいて適切と判断される名称を付与しました。また、用途や意味を特定できなかった記号については、「不明な記号1~6」として整理しています。
12)東京図測量原図に見つからなかった地図記号
【記号の名称】
醸造倉(じょうぞうそう)、るい石牆(るいせきしょう)、石牆(せきしょう)、石柱お牆(せきちゅうおしょう)、乾濠(からぼり)、高地及岩石
大森(1965)に示されている地図記号のうち、上記の6種類については、東京図測量原図から該当する図上表現を確認することができませんでした。また、最後まで所在が不明であった銀行の記号については、原図と印刷図で記号が異なっていたことが分かっており、今後の検討課題です。
(3)東京図測量原図記号略表
今回の研究で整理した東京図測量原図の地図記号について、略表を作成したので掲載します。また、原図の記号に対応する印刷図の記号や記号の意味などをまとめた記号一覧(PDF形式)も掲載していますので、適宜参照してください。